炬燵談義〜とある語部の小咄より〜


 梅の花も咲き誇り、春一番も吹きました。
 世界が次第に春めく今日この頃、皆さん如何お過ごしでございましょう。
 幻想郷は、人間も妖怪も揃って相も変わらず、平和な日々を送っております。

 しかしいくら春先が近いとはいえ、まだまだ冬は去ってはくれず、肌寒い日々もまだ続く様子。
 陽射しは麗らかで暖かくとも、吹く木枯らしは背筋を震わせます。
 こんな日は、その冷たい足を温々と温めてくれるこたつが恋しくなるというもの。

 今日はそんなこたつを囲む、ある人妖達の小噺でもいたしましょう。
 ちょいと暇を持て余すそこな貴方、よろしければ聞いて行かれませんか?
 なぁに御代なんて無粋なものは要りません。

 さぁ前置きはこれくらいにして、本題に入ると致しましょうか。



 ここは幻想郷の人里。昼間の里は行き交う雑踏の活気に溢れ、季節問わず賑々しさは幻想郷の中でも群を抜いております。
 その一角にあるのが、立派な庭園が広がる、里でも名の知れた名家、稗田家でございます。
 若いながら求聞持の能力を持って生まれ、当主の座を引き継いだ稗田阿求の住まう屋敷。

 噺の舞台はこの屋敷の客間。
 そして主役はそこに集まる四人の人妖。
 一つのこたつを取り囲み、何やら神妙な面持ちを浮かべ、誰も口を開きません。

 北には、今回この場を設けた張本人、稗田家当主九代目御阿礼の子、稗田阿求。
 東には、冬だというのに脇の露出した巫女装束に身を包んだ博麗神社の巫女、博麗霊夢。
 南には、目を閉じ腕を組み、硬い表情を崩さない幻想郷屈指の知識人、上白沢慧音。
 西には、噂話を聞きつければどこからともなく飛んでくる烏天狗の新聞記者、射命丸文。

 それぞれ接点はあっても、こうして集まる機会は殆どない面々が揃って炬燵を囲んでいるのには、勿論それ相応の理由がございます。
 その理由が何かと申しますと――おや、私の口から話さなくとも、噺の主役が自ら教えてくれるようですよ。

「こうして皆さんに集まっていただいたのは他でもありません。皆さんのお話を元に、ある疑問を解決したいのです」

 侍女に頼んで自室から持ってきてもらった、幻想郷縁起の一冊をこたつに乗せ、稗田阿求はある頁を開いて三人に見せました。
 ずいずずいと近寄りまして覗き込みますと、一同の目にとある妖怪が映ります。
 紙の上で妖艶な笑みを浮かべ、見る者に畏怖を感じさせる大妖怪が一人、境界の妖怪こと八雲紫その妖でございます。

 彼女の存在を知らない者は、ここには、いいえこの幻想郷にはおりません。
 無論、私の話を聞いている貴方も含め。
 ですが今更彼女の頁を見せて、稗田阿求は一体何を話せと言うのでございましょう。
 その疑問を口にしたのは、知識人、上白沢慧音でありました。

「八雲紫がどうかしたのか」
「阿一の時代から同一妖怪らしき姿が見られている彼女ですが、私の代に至るまで、その生態については何も分かってないのです」

 妖怪らしい妖怪の代表格。
 幻想郷と外界の境界を守る妖怪の賢者。
 本質を誰にも見せない、得体の知れない大妖怪。

 どれも表面的な情報ばかり。それ以上のことは誰も何もわかっておりません。
 しかしながら、それが八雲紫という妖怪なのでございます。

「ある疑問とは、ずばり“八雲紫の正体”について」
「正体も何も、紫は一人一種族の妖怪なんでしょ。それ以上でもそれ以下でもないんじゃないの?」

 稗田阿求が提示した議題に対し、面倒くさげに答えるのは博麗霊夢。
 その言葉に頷きを返しながらも、稗田阿求はそうではないと付け加えました。

「確かに。八雲紫は他に仲間のいない孤立した種の妖怪です。しかし、それでも種族と名が着くならば、それは如何なる種に属せばよいのでしょうか。“八雲紫”という種があるわけではないでしょう。私はそこから彼女の正体を見極めていきたいと考えています」

 熱弁を振るう稗田阿求に、博麗霊夢は「あっそぅ」と興味なさげな相槌を打ちます。
 しかしその隣では、射命丸文が好奇心に瞳を輝かせながらその話を聞いておりました。
 手にはすでに愛用の手帖『文花帖』とペンが握られており、書き留める準備は万端の様子でございます。

「それは興味深いですね。あの八雲紫の正体がわかれば、これは大スクープですよ」
「でしょう? 私も是非、古来からの課題に決着をつけたいと切に願っていたのです」
「しかしだな。いったい何をして彼女の種を決定づける? 彼女のような妖怪は、様々な歴史を視てきた私でも、他に例を見たことがないぞ」

 乗り気になって話を進める射命丸文と稗田阿求でございましたが、そこへ上白沢慧音が冷静に口を挟みます。
 ですがその問いにも、稗田阿求はすでに答えを用意していたようでございます。
 自信ありげに不敵な笑みを浮かべますと、両手を天板に乗せて、上半身を乗り出してこう言いました。

「その為のこの会合です。皆さんから八雲紫の特長について余すことなく話してもらい、それらの特徴から、彼女の妖怪としての種を決定づけたく思います。どんな妖怪でも何かしら別の種から派生して生まれたものであったり、類似した種が居るはずです。種の確定ができなくても、そうした近しい存在を考える材料にはなるでしょう」
「成る程。それはたしかに名案だ。しかしどうしてこの面子なんだ?」

 感心しつつも、上白沢慧音の脳裏を別の疑問が掠めます。
 八雲紫という妖怪を知る者は、もっと他にもいるはずでございます。
 それをこの三人に厳選したのには、何か訳があるのだろうと、上白沢慧音は稗田阿求に問いかけました。

「客観的に八雲紫の特長を話せるのが皆さんだったのです。慧音先生は言うまでもなく、幻想郷の歴史を知り尽くした賢人。八雲紫の歴史も知っていると思い、お呼びしました。文さんを呼んだのは、幻想郷一の情報通である烏天狗の中でも、最も人里に近い方だから。そして霊夢さんは、幾度となく八雲紫と接していながら、人と妖怪という立場を崩さず付き合い続けている貴重な方。丁度良い距離を持ちつつ、彼女の情報を持っていそうな方々として、皆さんを呼ばせてもらったのですよ」

 穏やかに笑っていた口元を引き締め、稗田阿求は頭を下げて懇願します。

「どうかお願いします。幻想郷七不思議にも入るであろうこの疑問、これに終止符を打つため皆さんの知恵をお貸し下さい」

 こうまでされては仕方がないと、上白沢慧音も協力の意を示すように頷きました。
 射命丸文は言うまでもなく乗り気でありまして、賛同していないのは先程から怠惰な表情を浮かべ、三人のやり取りを見つめている博麗霊夢だけと相成りました。
 彼女は里で買い物をしていたところ、突然稗田阿求に話しかけられ、「お茶でもどうですか」と誘われやって来たに過ぎません。

 稗田家は人里の中でも名家として知られ、博麗霊夢が以前に幻想郷縁起を見せにもらいに来たときは、その暮らしぶりに少し嫉妬したくらいでございます。
 いつもは買うこともできない高価な茶請けなどを、馳走してもらえるのではと、淡い期待を寄せながらついてきてみれば、こんな会合に参加させられる羽目になるとは、いくら勘の鋭い博麗霊夢も思っていなかったのでございます。
 こんなくだらないことに参加する暇はない。付き合ってられないし帰るわね、と博麗霊夢が立ち上がろうとした時でありました。

「多分長丁場になると思いますから、何か甘いものでも食べながら話しましょう。別に堅苦しい議論を交わすために呼んだわけではないですからね」

 にこやかスマイルとセットで告げられた言葉、その中の「甘いもの」という単語に、彼女の耳がぴくりと反応します。
 しばらくすると侍女が数名、お茶と茶菓子の栗羊羹を盆に載せて運んできました。
 舌触りの良さそうな羊羹の中に見えている山吹色が、なんとも食欲をそそる一品でございます。
 薫る緑茶の高級な芳香も、日がな一日茶ばかり啜っている霊夢の鼻孔はそれを逃すことなく感じ取ります。
 しかしここでその誘惑に負けてしまえば、自分がその程度で実を売る安い巫女だと稗田阿求に思われてしまうかもしれません。
 博麗神社の巫女たる自分には、それ相応の矜恃がある。博麗霊夢は思い悩んでおりました。
 四人の前にそれぞれ並べられていく湯飲みと皿。間近で見るとより美味しそうに見えて仕方がありません。

「これはまた中々の上物ですね」
「茶葉も良いものを使っている。さすがは稗田家だな」
「どうぞどうぞ、遠慮無く」

 上白沢慧音と射命丸文は素直に応じまして、羊羹と茶に舌鼓を打ち至福の表情を浮かべております。
 あまりにもその顔が美味しそうで、やはりここは、と矜恃の乗った博麗霊夢の心の天秤が羊羹と茶に負けそうになるくらいでございます。

「お茶のお代わりはいくらでもありますので。羊羹もある分はお代わりしてもらってもいいですよ」
「あらそう? だったらお茶のお代わり。あと羊羹も、もう一切れお願いね」
「気に入っていただけて何よりです」

 霊夢の矜恃は「おかわり自由」の一言で呆気なく放棄されてしまうのでありました。
 なんとも意志薄弱と言いましょうか、まったくもってふがいないばかり。
 ですが巫女としての矜恃だけでは、高い菓子も茶葉も買えないのでございます。



 これで三人の客人からの了承を得られた稗田阿求は、改めて今回の議題である“八雲紫”について述べ始めました。

「皆さん知っての通り、八雲紫は出生、力量、住処について何一つ確定的な要素が無い妖怪です。一つ言えるのは、境界を操るという最強に等しい能力と、その能力を持つに見合う頭脳、そして身体能力の高さを持ち合わせていること。妖怪の賢者として、幻想郷が今のように外界とは違う世界になる以前から存在していたと言われていますが、その辺りも詳細は不明ですね。ただ今でも幻想郷最強の名を持つ妖怪の一人であることは間違いない、と。この辺りのことは話すまでもないですね」

 一様に頷く三人の人妖達。
 実際に彼女と相まみえたことのある三人だからこそ、その力量の得体の知れ無さは理解しているのでございましょう。
 同時に彼女に秘められた見えない奥深さも。

「それでは皆さん、何でも構いません。目新しい情報でなくても構わないので、大妖怪八雲紫の特徴などを話してください」

 いきなり話せと振られても、皆一様に話し始める切っ掛けが掴めず、あいわかったとすぐさま話し出す者はおりません。
 しかし、いつまでもこの沈黙を続けるわけにもいきません。
 そこで最初に口火を切ったのは、里の会合などこういう場に慣れている上白沢慧音でありました。
 スッと手を挙げて、自分が一番槍になることを皆に指し示めします。

「誰も話し出さないようだから、まずは私が話をしよう。とは言っても、彼女に関する歴史は何故か把握し切れていない。ただ一つ言えるのは、彼女は幻想郷の歴史が始まってから共に存在し、多くの妖怪の中でもトップクラスの実力を持っていること。だがこれはさっき阿求が言ったことと同じだな。
 私が知りうる歴史から言えるのは、それに加えてもう一つ。彼女は多種多様な種族が入り交じる妖怪を束ねる立場にいるということだ。勿論厳密に支配しているわけではなく、協力関係の中心にいると言った方が正しい。
 冥界を管理する西行寺幽々子と友人関係にあるのは有名だ。鬼の一族とも交友関係があるのは、伊吹萃香なる鬼との関係からも窺える。それに月面戦争の際には多くの妖怪を引き連れて自ら先導を買って出ている。
 彼女の正体がなんであれ、その実力が高いのは事実であり、それに従う妖怪も多いというわけだ。妖怪の賢者として未だ幻想郷に君臨し続けているのも伊達ではないということだな」
「確かに。彼女一人の存在に、天魔様も河童族の長も手を焼いているようですから。それだけ彼女と他の妖怪の間にある関係というのは無視しきれない事実のようですね」

 上白沢慧音の言葉を裏付けるように、射命丸文も妖怪の山の事情を交えて頷きます。

 上白沢慧音の言うとおり、この八雲紫という妖怪。
 自身の力もさることながら、周囲に関係を持つ妖怪もまた、指折りの実力者達なのでございます。
 配下には九尾の狐を引き連れて、鬼や亡霊、その他諸々との関係が深く、幻想郷で誰かと話せば、至る所思わぬ所で彼女の名を聞くことになりましょう。

 上白沢慧音が話を終えると、そのまま流れに乗って秘伝の文花帖を片手に、射命丸文が話し始めました。

「でもその関係の多様さからは考えられないほど、彼女の実態は闇に包まれたままなのが事実ですよね。我々天狗族も何度も彼女の正体を突き詰めようと追いかけてきましたが、掴んだネタはどれもガセばかり。
 得体の知れ無さというのも、これはこれで彼女の特徴じゃないでしょうか。 今は正体だけに焦点を当てて話していますが、その能力も境界を操る程度ということだけしか私達は知りません。でもそれだけでもなんでもできるに等しい能力とも言えます。でもそれをしないのはどうしてか。本当は限定された能力なのか、それとももっと凄い力を秘めているのにあえてそれを隠しているのか。
 さっきの慧音さんの話にも関係在りますが、力の強い妖怪と関係を結ぶことは、その力を晒すことなく、目的を達成するための手段だとも考えられませんか? もちろんそれが絶対とは言うことは出来ませんが。
 他にも彼女は何処に住んでいるのかも謎ですね。幻想郷と外界の境界に住んでいると言ってもそれを確認することは出来ませんし、彼女の式である八雲藍に聞いても無駄ですし。一人一種族の妖怪は他に例がないため、謎が多いのは当然ですが、それでもここまで謎に包まれている妖怪は彼女をおいて他には居ませんよ」

 それはつまり、結局は何も分かっていないということではございませんか。
 しかし特徴がないのも特徴という屁理屈の通り、特徴が掴めないのが特徴と言っても良いのかもしれません。
 八雲紫という妖怪は、そう言っても誰もが頷かざるを得ないほど、謎に包まれた妖怪なのでございます。

 しかしこれでは正体を特定するどころか、そこからさらに離れてしまいます。
 やれどうしたものかと稗田阿求は茶菓子を口に運びながら、片手で今までの話をまとめておりました。
 その姿を見て、それまで甘味に負けてこの場に残ったは良いものの、一言も喋ることなのなかった博麗霊夢が、初めてその口を開いたのでございます。

「あぁ、紫のことで思い出したわ。特徴というか迷惑を被ってるってだけの愚痴なんだけれど」
「別に愚痴でもなんでも良いですよ。八雲紫に関することなら、なんでもどうぞと言ったのは私ですし。それに愚痴と言えども情報に変わりはありませんから。もしかするとひょんなことから、彼女の正体に近づくことができるかもしれませんよ」
「そんな大層な話じゃないってば。アイツったら人の家に勝手に入ってきたかと思ったら、いらない話をしたり、人んちの戸棚から勝手にお茶とかお菓子とか取っていくんだもの。うちに入ってきたことが分かるだけ、魔理沙の方がまだマシね」
「人の物を勝手に取る時点で、どっちもどっちと言うしかないと思うが。というか大妖怪の名が聞いて呆れる話だな」
「とりあえずスキマを使って、人の家に出入りするのだけはいい加減やめてほしいわ」

 溜息混じりに話すの言葉は、本当に愚痴以外の何ものでもございません。
 しかし人に迷惑を掛けるのも、妖怪としては至極当然の行動原理。
 八雲紫が妖怪らしい妖怪であるのなら、仕方のないことでございましょう。

「ひとまずこれで一通り皆さんに話してもらったことになりますね」
「でも全部あんたの幻想郷縁起に書いてある事じゃないの?」
「うーん……やっぱりこれ以上のことは出てこないんでしょうか」

 稗田阿求は三人が話した内容をまとめたメモを見ながら、頭をぽりぽり。
 流石に元々からある情報しか出てこなくては、何かを結論づけることはできないのでございましょうか。

 しかしその時、このやるせなさが満ち始めた空間に、助け船を出す者が現れたのでございます。
 それは、難題にぶつかった子供に知恵を分け与える教師としても働く、上白沢慧音でありました。

「阿求、お前がまとめたそのメモを私達にも見せてはくれないか。特徴だけを見れば、そこから何か掴めるかもしれないぞ」
「わかりました。これが皆さんの話から、八雲紫の特徴的なことだけを書き残したものです」

 そう言って阿求が中央に置いたメモ書きに、四対の視線が集まります。
 そこに書かれていた特徴は、このようなものでありました。

・珍しい一人一種族の妖怪
・妖怪の中でも最強に近い実力をもつ
・多様な妖怪と関係を持ち、その中心に立つそ存在
・得体が知れない正体
・住んでいる場所すら不明
・神出鬼没で、人の家に勝手に上がり込む

「後は私の先代、初代御阿礼の子の時代から、その存在が確認されていたということくらいですかね」
「寿命が長い妖怪の中でも、さらに高齢ということですか。賢者としての知恵もそれだけの歳月を経たからこその賜物なのかもしれませんね」

 稗田阿求はそのこともメモ書きに付け加えます。
 こうして見ると特徴の数だけはそれなりに出てきているようではありますが、そこから答えを見つけ出すことはできるのでございましょうか。
 同じ疑問は博麗霊夢も考えていたらしく、考えあぐねた様子で呟きます。

「それにしても特徴と呼べるものがこれだけ揃っているのに、外見は人間と大差ないから種族を断定するのは難しいわね」

 確かに容姿に種を特定できる要素がないというのも酷な話でございます。
 しかしいくら考えても、彼女の姿が変化することもございません。
 彼女たちに出来るのは、目の前に置かれたメモに羅列された特徴から推測することだけ。

「他の妖怪を束ねられるだけの力とカリスマを持ち――」
「あまりその実態は知られてはいない――」
「妖怪らしく、人の家に上がり込むなどの迷惑を掛ける――」
「長い歳月を生きてきた大妖怪、ですか……」

 その刹那、四人の人妖は何かに気付いたようにハッと顔を上げました。
 どうやら全員が同じ答えにたどり着いたようでございます。

「まさか、これは盲点でした……」

 呆然と、しかし嬉しそうな口調で呟く稗田阿求。
 他の三人も、この答えに満足している様子で頷き合っております。
 果たして彼女たちがたどり着いたも八雲紫の正体や如何に――

「それでは皆さん、満場一致と言うことで宜しいですね?」

 稗田阿求のまとめの言葉に、異を唱える者は一人もおりません。
 それを確認すると、稗田阿求は「こほん」と一つ咳払いをして、勿体ぶった様子で言いました。



「境界を操る大妖怪、八雲紫の種族は――『ぬらりひょん』ということで!」



 それから間もなくして、侍女の一人がお茶のお代わりを持ってきたとき、部屋には誰の姿も居なくなっていたそうでございます。
 こたつに残る温もりが、今の今まで四人がいたことを教えていますが、誰も部屋から出てきた様子もありません。

 一体彼女たちは何処へ消えてしまったのでございましょうか。
 気になることではありますが、残念ながら噺はここで終わってしまうのでございます。
 なんとも拙い噺ではありましたが、ここまで聞いていただき有難うございました。
 またどこかで話す機会がありましたら、その時はどうぞよしなに。
 それとついでにもう一つ。今日の噺は忘れることをオススメいたします。


 最後になりましたが、語りべは私、八雲紫がお送りしました。
 それではまた、どこかで見えるその日まで。


 ……それにしてもこの栗羊羹はなかなかの美味だわ。


《終幕》


☆後書☆

 キャラクターが延々と会話をするだけでも話にできないかと考えて、
 辿り着いた結果がこの『炬燵談義』シリーズ。
 その第一弾として、何かと謎の多い「八雲紫」の正体をテーマに語ってもらいました。
 紫=ぬらりひょん、というのはいろいろな資料を見ていて思いついたネタです。

 週間少年ジャンプで連載している『ぬらりひょんの孫』もこの時期始まったくらいですね。
 四国に焦点が当てられたりして、個人的にプッシュしたい作品です。
 ゲゲゲの鬼太郎でもぬらりひょんは強い妖怪として出てくるし、結構有名だと思うんだけどなぁ。

 ぬらりひょん、知りません?

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