例大祭10 ブロックノート 突発リレーSS(紫さん&雨虎)
「妖夢、お祭りよ」
幽々子様のそんな言葉が始まりだった。
しかし何の祭りか聞いても曖昧な答えしか返してくれず、要領を得ないまま、今私はどこへ向かうとも知れない行列に並んでいる。
「暑い……」
つい先日まで肌寒いくらいだったのに、この数日で気温は右肩上がり。五月だというのに、すっかり夏のようなそれだった。
心頭滅却すればなんとやら。とはいえ、こう周りが騒がしくては、それもままならない。
もう何度目になるだろう幽々子様から渡された買い物メモを見て、気を紛らわせる。
「でもこれ祭りで買い物って屋台でも出てるのかな」
それにしては書いてある内容がよく解らない。
『幽々子×紫本をあるだけ全部。リバは悔しいからダメ』
「うーん……?」
まぁこれだけ人が多いのなら、さぞ賑やかな祭りなのだろう。その点だけは、少し楽しみだった。
祭には二種類ある。
神事として神を祀る厳かで静かに張りつめたもの。
もう一つは人々の文化として開かれる熱気に包まれた荒ぶるもの。
今私がいる祭は参加している人達の様子から察するに、後者と思われるが。
「例大祭……って、こんな野獣の様な気配が漂うものなの?」
思わず剣を抜いてしまいそうになる程の殺伐とした空気だ。
「あぁそこの君、刀剣のような危険物は持ち込み禁止ですよ」
……没収された。
***
なんとか会場の中に入ることができた私は(厳重注意されたけど)早速、幽々子様の地図とメモに従い目的の物を探す。
「なんか本ばかり。ここは古書市? わぁ可愛らしい女の子の裸が……」
気がつくと周囲は春画を売るハレンチ極まりない市と化していた。
「な、ななな……」
けれど幽々子様のメモと場所はあっている。
「まさか幽々子様は私に春画を買わせようと……」
あの方の企てそうなことだ。しかし使命は全うしてこそ。
ここで恥ずかしがっていては、お祖父様にしかられてしまう。
私は決意を固め、売り場の主へと声を掛けた。
***
「どれどれ? 妖夢が買ってきてくれた本は、と。あの子自信満々みたいだったけど(本当はもっと恥じらってくれた方が……)」
妖夢の買ってきたものを見て、幽々子は己の所業を恥じた。
それらは全て確かに幽々子の注文通りではあったものの、ソフトなものは一切無く、ハードな内容のものばかりだった。
「妖夢を……汚してしまった」
幽々子の涙が、自分の痴態春画の上にポタリと落ちた。
《おわれ》